中信にほんごひろばの活動



1.活動のきっかけ

 仕事や結婚など親の都合で来日をしたり、日本で生まれても両親共に外国籍の子どもたちは, 日本語が分からず授業についていけないケースがあり,不就学や高校進学が難しいなどの問題を抱えている。

 しかし、二か国語を話せる子どもたちの多くは、将来,母国との架け橋になりたいと願っており, 日本にとっても必要な人材になるはずであるが、対策を怠れば,新たな貧困層になる怖れもある。

 子どもたちの親も、言葉の問題や習慣の違いから学校のことが分かりづらく,子どもの教育に支障を来たしたり、 日常生活でも地域社会と隔絶してしまうケースや、日本人との相互理解を深めることが必要な場合もある。

 このような問題を背景にして、NPO法人中信多文化共生ネットワーク(略称CTN)は、平成22年3月市民を対象に日本語指導法の研修会を開催した。

 研修修了者のうち元教員や学習塾経営者を中心に、20代から80代までの約20人の有志が、庄内地区公民館との共催で、同年7月、外国由来の子ども向けの日本語教室「中信にほんごひろば」を開講した。

2 活動の概要

 松本市内には、公民館を使用した日本語教室が5箇所ほどある。 私たちの教室は、外国籍の方が最も多く居住する庄内地区で、公民館と居住域内にある県営並柳団地集会所の二か所において、外国籍の親子を対象に活動している。

 活動日は毎週日曜日で、午前9時半に集合して教室の準備とミーティングを行い、10時から11時半まで学習、その後は片付けと活動報告書の作成、そして反省会をしている。

 学習方法は、学習者の能力,本人の希望に応じて日本語または教科を一対一で支援している。時には、各国のお料理が並ぶお食事会、ハロウィンやクリスマスでのお楽しみ会も開催して親睦を深めている。

 また、公民館研究集会、公民館の文化祭、市内国際交流イベント、外国由来の生徒のための進学ガイダンスなどで、活動状況の展示やチラシの配布によるPR活動を実施している。

 25年度の活動実績は、活動日数が45日、学習者は中国・ブラジル・ペルー・フィリピンなど延べ67人(717人・日)、支援者は信大生8人を含む延べ37人(535人・日)であった。

 学習者は、皆が真剣であり、支援者も無報酬のボランティアであるが,皆それぞれの思いを持って,子どもたちの笑顔に癒されながら,自分磨きをしている。

3 地域との連携

 現在約60世帯の外国籍の方が居住する並柳団地の町会とは、公民館を介して教室の開設前から連絡と相談をさせていただいており、 平成22年7月庄内地区公民館での開所式には、町会長、民生児童委員にご出席いただき、その後も各種イベントのつど、ご支援をいただいている。 当初、団地で生活する外国籍の学習者が半数を占めたのも町会でお誘いいただいたことによる。

 しかし、庄内地区公民館での活動は,開講以来学習者の集まりが今ひとつで、支援者の余る状況が続いた。民生児童委員のお話では、 並柳小学校には、和泉川を境に公民館側へ学童だけで行ってはいけないという決まりがあるとのことだった。

 そんな時に町会から、もっと身近な場所でも教えてほしいとの要望があり、公民館ともご相談をして、昨年3月から出前講座という形で、 県営並柳団地集会所での教室を始めた。当初は、公民館へ来ていた団地に住む学習者が、集会所へ移動しただけであったが、 民生児童委員が一軒一軒回って、会のチラシを手渡で勧誘してくれたお蔭で、今では支援者の足りない状況が続いている。 また、集会所の学習者は、ブラジル系がほとんどであったが、最近は中国系が過半数を占めるようになった。

 集会所では、生活に関する各種手続き、困ったこと、わからないことなどについて、町会役員・民生児童委員が毎回出席して、 相談に応じる体制を確立している。学習者にとっても、支援者にとっても心強くとてもありがたい。

4 支援の輪

 現在、支援者は20人余いるが一対一の学習をするには不足ぎみである。

 CTNは毎年、中央公民館で日本語指導法の講座を開催している。私たちの会からも数名が受講しているが、修了した方の入会はわずかで、 どちらかと言うと未経験の方が「家にいてボーとしているよりも、地域の役に立ちたい」というボランティア精神豊富な方の入会が多い。 このような活動に興味のある方は、ぜひ様子を見に来ていただきたい。

 入会にあたり特別な条件は付けていないが、心得として、

  ・活動中に知り得た個人情報は,絶対に口外しない。
  ・どの児童・生徒にも思いやりの気持ちをもって,丁寧な言葉で分け隔てなく接する。
  ・自分を向上するために,児童・生徒から学ぶ姿勢を持つ。
  ・自分自身の生きがい,喜びのために,児童・生徒から頼られ,敬愛される,存在価値のある豊かな人間を目指す。
  ・支援者の輪を広げ、新たな友達を作り,人生をエンジョイする。
  ・活動は、あくまでも無報酬のボランティアで,交通費や謝礼等の支給はない。活動に対するお礼は、子供たちの『笑顔』と『ありがとう』の言葉である。

など支援者のあるべき姿を定めている。

 CTN代表の信州大学佐藤准教授のご尽力で、信大生が継続的に支援してくれているが、子どもたちと年齢が近いこともあり、 また教科学習指導に向いていることから、とても人気がある。韓国や中国からの留学生も日本語学習者の先輩として力強く支援してくれた。

 会の運営資金は、図書類の購入等に多額な費用が必要なため、CTNからの支援や県国際化協会からの助成金等によって運営できている。

5 おわりに

 いままでの活動を通して、日本語で話をするのはここでだけという人や、来日して十数年になるが、 ほとんど日本語が話せない人がいる。言語や文化の全く違う外国へ来て、ごく限られた狭い環境の中でどんなに孤独で不自由な生活をしていたのだろう。 教室へ通ううちに表情がだんだんと明るくなっていくのが見えると、お役に立っているのだと逆に励まされる思いである。

 松本地震の時、通学路の塀が崩れて並柳小の学童がけがをしたが、日本語教室に来ている6年生がその子を背負って学校へ連れて行ってくれた。 また、就職ができずに履歴書の書き方や、資格取得の支援を必要とした彼が、町会の国際班班長として活躍している。そんな出来事が、何か自分のことのようにうれしく思う。

 これからも、教室が外国籍の親子にとって心地よい居場所となるように心がけていきたい。